まず、そもそもですが乗務員が受注をキャンセルをしている時点で「乗車拒否」と思えるかもしれませんがそうとは簡単に言い切れません。
例えばですが、タクシー会社に電話で配車の依頼をして、車の手配がつかず断られても、誰も「乗車拒否」をされたとは言わないはずです。
ここで前回説明した指針を補足しながらまとめると、「空車(申込の意思表示をして)でタクシーを走行中に、お客が手を上げ(受諾の意思表示をして)、一旦停止または徐行をした時点(乗務員が気が付いた時点)で申込が成立し、以後は正当な理由がない限り、乗車拒否はできない。」と考えます。
そこで、アプリの配車依頼通知(申込の意思表示)に対する乗務員の応答ボタンを押す行為(受諾の意思表示)で申込が成立するかどうかということが、重要なポイントとなります。
ここでまたタクシー会社に電話で配車の依頼をした時のことから考えてみると、タクシー会社として申込受諾のために必ず必要なことは、①希望時間と②自社の車の空車状況と③迎車場所を正確に確認できることであり、以上が申込の受諾ができる前提であることは理解できるということがわかると思います。
これを、DiDiの配車アプリで考えてみると、応答の時点で①できるだけ早くということと②については明確ですが、③については直線距離(最長5㎞)だけで方向は全くわかりません。
以上からすると、タクシー会社で電話を取った時点で申込の受諾にならないのと同様に、アプリでも応答ボタンを押した時点では迎車場所が正確に確定していない以上、申込の成立はしないと考えます。
また、指針では乗車地は確定しているため、応答ボタンを押す時点で、乗車地が確定していない以上、申込は成立しないと考えても、指針の考え方との齟齬はありません。
実際のところ、距離はそれほど遠くなくても、逆方向でしかも周りが繁華街で車で入れないため、大きく迂回をして予定時間に辿り着けない迎車地の場合もあれば、DiDiの場合はメーターと連携のため誤作動で応答ボタンを押さなくても受注する場合もあるのが実情です。
ただしですが、応答後は迎車地は正確に確定しますので、1分経過(目安ですが)してそれまでにキャンセルをしないと、申込は成立とみなされ、以後乗務員がキャンセルする場合は、お客に対する契約の債務不履行責任だけではなく、キャンセルする行為自体がまさに道路運送法13条の「引き受けを拒絶する」行為になり「乗車拒否」にあたり得ることになると考えるべきというのが、私の意見です。
なお1分経過というのは、乗務員の立場で考えれば1分あれば通常は判断はできるというのと、お客の立場で考えれば確定までの時間は早いに越したことはありませんが1分であれば待てる時間と思うからです。
そして、悪質な乗務員のキャンセルの場合は「乗車拒否」にあたり、然るべき行政処分の対象となり、しかも、お客に対しては契約の債務不履行による損害賠償責任を負うべきと考えます。それに対して、乗務員の過失(例えば、途中で事故にあったとか、迎車地で誤って別のお客を乗せてしまったなど。)でキャンセルする場合には、お客に対しての契約の債務不履行による損害賠償責任のみを負うべきと考えます。
今回の説明は以上となりますが、少し補足をさせていただくと、申込の成立=契約の成立となり、契約が成立すると、当事者双方に債務の履行義務が発生します。今回は、乗務員がその義務が履行できない場合(債務不履行)の損害賠償責任を負うことを説明しましたが、実はお客も契約の成立に伴い乗車する義務を負う結果、当然キャンセルをすれば、乗務員が負うのと同様の契約の債務不履行による損害賠償責任を負うべきというのが、実は私の考えでもあります。
そして次回はアプリごとに異なる乗務員とお客のキャンセルに対する応対について説明していきます。
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